Column コラム

Identify you Magazine Vol.8

「リアルな場で魅了する」~中国におけるスペースブランディング(空間設計)の実践【後編】~

スペースブランディング(空間設計)の後編です。専門チームである、グラムコ上海 北京分公司のお二人に、日本の実績を交えてスペースブランディングの未来を熱く語って頂きました。

コロナ禍の日本で実現したプロジェクト

――日本で実施したプロジェクトについてもお聞かせください。

廖(リョウ)

今日リモートでどんどん進められる時代になったので、日本のプロジェクトでも、スペースに関する部分をお手伝いする機会は増えています。たとえば2021年に不動産情報を提供するハウスドゥのリブランディングのお手伝いをさせて頂きました。2005年に最初のブランディングプロジェクトをサポートさせていただきましたが、ブランド立ち上げから15年を経て、不動産業界においてDX化が進む中、店舗というリアルな顧客接点におけるブランド体験の進化の必要性をクライアントは感じられていました。
そこでまずは東京側のチームで、クライアントと共に不動産テック時代に相応しいパーパスを始めとするブランドコンセプトを再定義すると共に、新しいロゴやブランドスタイルを開発しました。

江藤

店舗については、常に東京のチームと情報を共有しつつ、コンセプトをどう反映して空間づくりを行うかというところから北京チームが具体的に参画していきました。コロナ禍ではありましたが、実際に日本に戻って現地の店舗に調査にも行きました。そうして、新しいブランドのスタイルを空間に活かしつつ、機能面では物件のペーパーレス検索やVRによる疑似内見等、最新デジタル技術を駆使した情報提供空間と、全国チェーンでありながら親しみやすい地域密着サービスを感じていただけるよう、顧客がスタッフと対話しやすいパーソナルな空間を確保しました。

ハウスドゥ住宅モール草津店の店内(右上/左下)と各種制作物

成功するスペースブランディング

――これまでの経験を通じて、スペースブランディングが成功するには何が必要だとお考えですか。

廖(リョウ)

スペースブランディングが成功したかどうかは、使う人が後から評価するものだと思っています。使う人というのは、一番はお客さまですが店舗スタッフも含みます。判断する上で、入りやすい店舗であることは絶対条件です。次に、お客さまの滞在時間によって評価できると思います。例えば、先ほど紹介したAlienware旗艦店のPCパーツで作った北京の街並みは、その前で写真を撮るお客さまが増えたことで、滞在時間の向上へとつながりました。商品を買って頂くだけでなく、まずはブランドに触れてもらうことが大事です。良いお店は、その他にも商品陳列や動線など一見して分からない部分も大事にしています。

江藤

基本的にはブランドイメージが、空間やサービスに反映されていることが重要なのですが、その空間自体が独りよがりにならないように注意しています。扱っている商品が引き立つような形、商品と空間とが喧嘩せずに、お互いを高め合うような形が良いスペースブランディングではないかと感じています。例えば話題性だけを重視した空間というのも多々ありますが、それだと1年もすれば飽きられてしまいます。空間だけが先走ってしまうのは、良くないスペースブランディングだと思います。

スペースブランディングが持つ可能性

――この先のスペースブランディングの潮流や可能性についてお聞かせください。

江藤

コロナ時には、リモートワークが盛んになり、物理的な接触や交流が制限される中、メタバースが注目されました。ファッションブランドのプロモーションや、有名アーティストのオンラインコンサートがメタバース空間で行われていました。それらは物理的制約がないのでデザイン面等自由度が高く、非現実的な体験も容易です。
とはいえ、ブランディングの観点から設計されたメタバース空間はまだまだ発展途上と思っているので、可能性のある領域ではないでしょうか。そして、スペースブランディングの横串を通したリアルな空間とヴァーチャルの融合が益々進むのではないでしょうか。

廖(リョウ)

私はリアルな場でのチャネル、立地の重要性がますます高まってくると思います。これまでは大きな商業施設など人が集まる場所が重要視されていましたが、交通のアクセスが良い場所など、これまで以上に人の動きを観察して出店しないといけないと思います。さらにはオンラインと連動させて終わりではなく、店舗で使い方を学べるとか、お客さまに楽しんでもらう仕掛けを用意することで、オンラインからオフラインへとうまくつなげ、もっとリアルなお店を活かすことはできると思います。

――最後に読者に向けて一言ずつお願いします。

江藤

リアルな場の体験に比べると、オンラインやスマホで得られる体験はどうしても希薄になってしまうという部分があると思います。現実のリアルな空間だと、香水の匂いや、音楽で昔の記憶が呼び戻されることも多々あると思います。そうした五感を含めた設計を行うスペースブランディングは、今後ますます重要なタッチポイントだと感じていますので、デザインを通じて人の記憶にも作用して、ブランドらしさを表現した空間をクライアントと共に作り上げていけたらなと思っています。

廖(リョウ)

これからは、お客さまの潜在的な要求をつかんだ上で、コンセプトにあった立地、陳列、サンプリング、デザインがますます必要になってくると思いますので、これらを大事にしていきたいと思います。
私たち北京チームの精緻なプランや、リアルなパースにまで落とし込めるクリエイティビティを日本のプロジェクトでもぜひご活用頂きたいと思います。東京側の窓口と連携して、ブランドの個性を引き出す空間構築をお手伝いします。

プロフィール

廖芃 LIAO PENG(GRAMCO上海北京分公司 総経理)
2004年 グラムコ入社
2006年 グラムコ上海 北京分公司設立と同時に赴任

 


江藤 潤一(総監/一級建築士)
2003年 グラムコ入社
2009年 グラムコ上海 北京分公司に出向

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