ブランドは“共感”で育まれる #3 ブランドは人の心でつくられる

最終回となる第3回では、クライアントが抱える悩みからブランド戦略を実行に移す際の社内浸透や、AI時代における新しい可能性、そして経営層やブランド担当者へのメッセージを伺います。

  • 下間 彩子(Ayako Shimotsuma) / コンサルティングディレクター

Gramco Insights 08

Insights

#3

「価値」は見出すもの

―― ブランド戦略を考えるとき、クライアントがよく抱えている悩みには、どんなものが多いですか。

下間:多いのは、「事業領域が広くてやっていることもバラバラ、顧客も違う。だから同じブランドとして言えることはないのではないか。」という悩みでしょうか。特にコーポレートブランディングのご相談でよく伺います。事業が広がること自体はもちろん良いことですが、広がったがゆえに「私たちは結局何者なんだっけ?」が分かりづらくなる。部門ごとに見れば成果も出ているし、事業としては成功している。でも全体を貫くアイデンティティや「旗」が見えにくい。そういうお悩みが多いです。
もう一つ多いのは、「事業や商品はいいのにそれがちゃんと伝わっていない、他社に負けている。」という悩みです。特に日本企業に多いでしょうか。もし他社がブランディングをしていて、自社がやっていないのであれば、ある意味当然のことかもしれません。情報が溢れている現代では、いいことをやっていれば黙っていても伝わる、というのはなかなか起こりません。

 ―― 前者の悩みの場合、どうアプローチしますか。

下間:私たちがすべきことは「横軸」を見つけることになります。個別の事業をひとつずつ理解して共通項を探す、ということです。ファクトとしての共通項を探すというよりは、ある程度抽象化することで共通項を見出す、というイメージに近いです。それが見えてくるまで現場に行くなり、話を伺うなどして情報を集めます。重要なのは、基盤となる価値を理解した上で抽象化することです。表層的な言葉づくりに終わらせないためには、事業やサービスを深く理解した上で言葉を紡ぐことが大切です。

 ――「事業や商品はいいのにそれがちゃんと伝わっていない」という後者の悩みの場合はどうですか。

下間:優位性や独自性など、「何を伝えるべきか」という内容の部分をまず決めることからスタートします。クライアントの「これが特徴」「これを伝えたい」は当然重視しますが、やはり、競争環境もある中で、ステークホルダー視点で何が価値になるのか、ということが重要で、我々のような第三者が入る意味がそこにあると思います。他と何が違うのか、どんな価値があるのかを言語化し、可視化する。そうすることで改めて「うちの価値はここにあったんだ」と気づくこともあると思います。

 ―― 最近は少ないかもしれませんが、「短期的にどれくらい儲かりますか?」という話をされる企業もありますよね。長期的な視点を持つことの大切さは、どのように伝えていますか。

下間:最近は「短期的な利益だけ見ている」という企業は減ったと思います。むしろ逆に増えているのは、「パーパスや長期ビジョンはあるけれど、その掲げた理想の姿になるために、何をすればいいか、どう進めればいいかが分からない」という悩みです。
そういう時は、アクションプランの策定が有効です。パーパスや長期ビジョンのような「最終的にこういう状態になっている」という未来像をもとに、中期経営計画等に合わせて3〜5年にスパンを区切り、その区切り毎にまた「こういう状態になっている」という状態目標を設定する。そしてその状態になるために実行すべき施策を決める。これをステークホルダー毎に設定すると、パーパスや長期ビジョンが単なる理想ではなく、到達可能なステップに変わります。最近はこのようなニーズが非常に多くなっていて、以前よりも実体化への意識が高まってきた印象です。「ブランド戦略は長期的な取り組みである」という理解も浸透していると感じます。

ブランド戦略立案における全体計画のアクションプラン例
ブランド戦略立案における全体計画のアクションプラン例

実行フェーズで形骸化させないために

―― ブランド戦略やパーパスをつくった後に、それが「つくって終わり」になってしまう企業も多いと聞きます。どうすれば防げるのでしょうか。

下間:先ほども話しましたが、状態目標を明確にすることが有効です。パーパスが「北極星」だとすると、状態目標はそこに向かう途中のマイルストーンです。「3年後にこの状態になっていたい」「6年後には社員がこういう行動をとるようになってほしい」「顧客からはこういう言葉をもらいたい」。これを言語化し共有化しておくことで一定防ぐことができると思います。

経営のコミットメントと現場の腹落ち

―― ブランディングの実行において社内、現場を動かすには何が必要ですか。

下間:経営のコミットメントは絶対必要です。トップが本気かどうかにかかっていると言っても過言ではないと思います。経営者の方にはぜひ、ブランディングについてもご自身の言葉で語っていただきたいと常々思っています。温度のある言葉で「こういう未来を一緒に作りたい」と語ってもらう、それが一番響くのではないでしょうか。
ただし、トップダウンだけでは足りないのも事実です。社員が「それって自分の仕事とどう関係あるの?」と感じてしまうと、動きが止まります。「自分事化」ということがどうしても必要です。たとえば、部署ごとに集まって、「自分たちの業務でパーパス実現のために何ができるのか」を話し合うワークショップなどを定期的に開催するなどは、とても有効な取組だと思います。

インターナルブランディングのリアル

―― 社員の皆様の理解を得ることが大事ということですね。そのためには、何ができるでしょうか。

下間:インターナルブランディングは欠かせません。インターナルブランディングとは、社員一人一人にブランドを自分事として捉えてもらい、日常業務にブランドを埋め込むための施策です。まずブランド戦略を共有するという点においては、社内報やポスターに載せるというのはとても有効です。何度も目にするうちに、その言葉が自然と身近なものになります。草の根的な積み重ねが一番効きます。共感を醸成するには、ブランド戦略を体現した社員のストーリーを共有し、社員の皆様に「どのような行動が自分たちらしいのか」「自分ならこういう行動ができるのでは」といったような理解や考えを深めてもらう施策も有効です。実践を促すという観点では、例えば、ブランド戦略を体現した社員を表彰する、人事評価基準をブランド戦略に紐づける等が考えられます。現場の社員の皆様を主役にする仕掛けも大切です。社員が楽める、前向きになれる施策を多くする、というのもインターナルブランディングのポイントです。

インターナルブランディングにおける、社員を巻き込むためのアクションステップとアイデンティティ活用施策フレーム
インターナルブランディングにおける、社員を巻き込むためのアクションステップとアイデンティティ活用施策フレーム

AI時代のブランド戦略

―― AI時代、ブランド戦略のやり方は変わりますか。

下間:どうでしょうか。AIは便利ですし、私たちも活用しますが、ブランディングは人と人の情緒的なつながりをつくるものですので、現時点では本質は変わらないと思います。むしろAIが進化すればするほど、人間らしい共感や物語の価値が高まる可能性もあると思います。AIの進化次第では「人間とは」という深淵な問題にもなると思いますが、今のところ、大量のデータを整理したり、仮説を出したりするのにAIを活用はしますが、「これが私たちの未来だ」と決めるのは人間ですから、あまり変わらないのではと思います。経営者や社員が意志をもって決める。その熱い想いの束がブランドをつくると信じています。

自分たちの未来を選び取る

―― 最後に、経営層やブランド担当者へのメッセージをお願いします。

下間:私が印象に残っているのは、以前知り合った経営者の方がおっしゃった「ブランドはお金ではなく、人の心でつくるものだ」という言葉です。
ブランド戦略は、自らの未来を選び取る作業です。今の延長線上だけに未来があるわけではない。どんな会社でありたいか、どんな社会にしたいかを自分たちで決める。そしてその未来に向かって、ステークホルダーとともに歩んでいく。ブランディングによって社員の表情が変わる。顧客の反応も変わる。そして社会や世界が変わる。もちろんいい方向に。私はそうしたブランディングの力を信じていますし、そのプロセスに伴走できることを幸せに思っています。これからもブランディングを通してお役に立てたらと思います。

  • 下間 彩子(Ayako Shimotsuma)

    下間 彩子(Ayako Shimotsuma)

    コンサルティングディレクター

    • 2005

      グラムコ入社

Latest Thinkings