ブランドは“共感”で育まれる #2いいブランド戦略とは

第1回ではブランド戦略の本質、そして経営との関係について話して頂きました。第2回目では実際のプロジェクトでどのようにクライアントと歩んでいくのかを伺います。

  • 下間 彩子(Ayako Shimotsuma) / コンサルティングディレクター

Gramco Insights 08

Insights

タイトル

広がるステークホルダーと長期視点

―― ブランド戦略を立案する上で大事にしている視点や、絶対に欠かせないことはありますか。

下間:やはり「ステークホルダー視点」です。ブランディングは「ステークホルダーとの情緒的なつながりをつくる営み」です。「情緒的なつながり」をつくるためには、「私たちはこうです」というだけでは足りない。相手からどう見られたいのか、というステークホルダーとの接点になりえるポイントを探し出すことが重要です。たとえば「自分たちの強みはここだ」と主張するだけでは、ステークホルダーからは独りよがりのように見えたり、「へー、そうですか」だけで終わってしまう。そうではなく、その強みがあることで、ステークホルダーにとってどんないいことがあるのか、という彼らにとっての「価値」に置き換えることがとても重要で、相手の視点から自らを見つめ直すことが、情緒的なつながりをつくる第一歩になります。

―― 最近はマルチステークホルダーという言葉もよく聞きます。かつては株主中心の時代もあったと思いますが、今は従業員をはじめ、さまざまなステークホルダーを見なければならないと言われています。21年間この業界にいらっしゃって、ブランド戦略を立てる上で気にしなくてはいけないことは変わってきたと感じますか。

下間:はい、明らかに変わってきたと思います。近年の一番大きな変化は、やはり「パーパス」という考え方が広がったことですね。10年以上前までは、ブランド戦略と言えば「顧客満足」や「社員エンゲージメント」など、社内外の人間関係を中心に考えることが多かったと思います。でもこの10年ほどで、社会においてどんな価値を提供するか、どんな役割を果たすのか、という社会における存在意義が問われる時代になりました

パーパス
パーパスに基づく、ステークホルダーへの一貫したコミュニケーション例

面白いのは、パーパスがあることで社員の意識も変わるということです。「会社の利益のために頑張れ」ではなく、「こういう社会にするために頑張ろう、それは我々にしかかできないことだから」と言われると、同じ仕事でもモチベーションが違ってくる。だからこそ、ブランディングはパーパスをただ掲げるだけではなく、日々の行動や意志決定に落とし込むことが大切です。
環境への配慮や持続可能性、地域社会への貢献など、かつてはCSRの文脈で語られていたことが、今ではブランド戦略においても大きな存在感を持つようになりました。単に「自分たちはこうしたい、こうありたい」ではなく、「社会にとって自分たちはどうあるべきか、何ができるのか」を考えなければならない。そういう意味では、ブランド戦略はますます広い視野と長期的な視点が求められるようになったと感じます。

クライアントを「わかる」こと

―― ブランド戦略を立案する際、どこから始めますか。

下間:「なぜブランド力を上げたいのか」を把握するところから始めます。「ブランド力を上げたい」という思いの背景には必ず理由や目的があります。ブランド力を上げてどうなりたいのか、という最終的な目的や解決したい課題は何かということをきちんと把握し、その目的のためにはどう進むのがよいのか、どんな選択肢がありどんな優先順位になるのか、という風に考えていきます。
発信がバラバラでイメージ形成がうまくできていない、そもそもどういうイメージを獲得すべきかという設定がない、といったすでに発生している課題を解決するためにブランディングを始める、ということもありますし、グローバルブランドに伍するブランドになりたい、そのためにはブランド視点からはこういう戦略と施策が必要、という組み立てになることもあります。
いずれにしても大切なのはそのゴールで、なぜやりたいのか、どうなりたいかが、ブランド戦略や施策を設定するときの一番大事なことだと思います。プロジェクトが始まる前にそこをしっかりと把握し、クライアントと共通認識にしておくことが不可欠です。

―― 気をつけていることや、必ずしていることとかはありますか。

下間:私は必ず社史は読むようにしています。社史には、その会社がどんな背景で生まれ、何を大事にしてきたかが詰まっています。どんな思いで創業したのか、どんな風に成長してきたのかを知ると「だから今、この会社はこうなんだ」と、すっとその会社のことが「わかる」ようになります。
さらに、現場になるべく足を運ぶようにしています。工場なら見学し、ホテルなら実際に泊まります。そこにいる方々の様子、その場の雰囲気、音や匂い、土地の空気感などをできるだけ感じとるようにします。クライアントのことを字面だけで理解するのではなく、身体的に「わかる」ことがとても重要だと思っているからです。

ロジックと感情の両方で納得できるブランドコンセプト

―― 情報を集めたあと、どのように戦略に落とし込むのですか。

下間:非常に地味で時間のかかる作業ですが、まずは集めた情報を整理するところから始めます。ゴールを見据えた時に、これは戦略の立脚点(DNA、強み、優位性、独自性等)になるな、というものを見つけ出し、同時に課題も整理していく。この段階である程度、戦略の骨格は見えてきます。ただブランディングは、情緒的なつながりをつくっていくものです。ブランド戦略を描くには、単に正しいことやファクトを言うだけでは十分ではありません。根源的なモチベーションとして、特に組織の中にいる人の心を動かし、求心力と推進力をもたらす「言葉」が必要です。自分たちらしいと納得・共感できる言葉。このためになら頑張れると励まされる言葉。これが私たちのプライドだと誇りを抱かせる言葉。情報整理と同時に、身体的に「わかった」ことを咀嚼しながら、そうした言葉、ひと言を必死に探します。ある瞬間に「これだ」とひらめくこともありますし、辞書を引いて文字通り探し出すこともあります。情報整理と言葉探し、この往復を繰り返すことで、クライアントにとってはロジックと感情の両方で納得できるブランドコンセプトになるのではないかと思います。

下間さん

寄り添いつづける

―― ブランド戦略を決める上で、特に大事にしていることはありますか。

下間:そうですね、クライアントが「これでいける、走れる」と思えるものになっているかどうかが生命線のような気がします。どんなにいい戦略を立てても、クライアントにそう思ってもらえない限り前に進みません。結局、戦略を実行するのは私たちではなくクライアントの皆様なので。
そのためには、情理を尽くして語るしかありません。それでも至らない時は、私たちがまだ知り得ていない何かがあるのかも知れず、もしくは合意形成できない何等かの背景があるのかも知れず、やはり常にクライアントに寄り添い、「わかる」という努力をしていくことが重要なのではと思います。

―― クライアントの方からのフィードバックが明確でない場合もあると思います。そういう時はどう対応するのですか。

下間:「何か見落としているものがないか」「真の意図はどこにあるのか」等、とにかく探るしかありません。経営層と担当者で見ている景色が違うことや、関係者が多すぎて獏となってしまっているなど、クライアント内部の事情が要因の場合もあります。そういう場合は、最初に握っている最終的な目的、何ためにブランディングをやっているのか、ということを改めて確認し、視座を上げたり、視野を広げたり、短期から長期へ目線を移していただきながら、意思決定や合意形成のサポートをします。

第2回では、下間が大切にしている視点や現場での具体的なプロセスや方法についてお話を伺いました。最終回となる第3回ではクライアントが抱える悩みからインターナルプランディングやAI時代のブランド戦略、そして経営層へのメッセージを語っていただきます。

  • 下間 彩子(Ayako Shimotsuma)

    下間 彩子(Ayako Shimotsuma)

    コンサルティングディレクター

    • 2005

      グラムコ入社

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