AI時代にブランドはどう進化するか  #2ブランドの本質を、責任を持って語る

AIが急速に普及し、ビジネスのあらゆる領域で「どう使いこなすか」が問われる時代になりました。 デザインやブランディングの現場も例外ではなく、作業効率やスピードが飛躍的に高まる一方、ブランドの核にある“人間らしさ”や“感性”はますます重要になっています。 今回のインタビューでは、グラムコで数多くのブランド立ち上げと運用に携わってきたエグゼクティブアートディレクターの木村百合子に、テクノロジーの波をどう乗りこなしてきたか、そしてAI時代にクリエイティブがどこへ向かうのかを聞きました。

  • 木村百合子 (Yuriko Kimura) / エグゼクティブアートディレクター

Gramco Insights 09

Insights

TOP#2

第1回ではAI論争や導入の課題を伺いました。今回は、印象的な事例やブランドの未来像、そして経営にどう結びつくのかを深掘りします。

ペンタグラム × 米国政府Web―AIは“目的”に従う 

―― 印象的なAIを活用した事例があれば教えてください 

木村:印象的なのは、ペンタグラムが手掛けた米国政府のWebサイト刷新プロジェクトです。単なるリニューアルではなく、「情報へのアクセスを民主化する」という社会的な課題を解決する取り組みでした。 
従来の行政文書は長くて読みにくく、市民にとっては“壁”のような存在でした。そこでAIを用いて要約し、見出しや文字量を最適化。誰もが理解しやすいWebに刷新しました。デザイナーの美学を前面に出すのではなく、「市民が情報にアクセスできる」という本来の目的を優先したのです。 
ここで大事なのは、AIそのものが価値を生んだのではなく、「課題—目的—設計」を明確にし、AIを最適な位置に組み込んだ点です。ブランドやデザインに関わる者は「どこにAIを使うべきか」「どの粒度で制御するか」を設計しなければなりません。これは経営で言えば、テクノロジー投資を単なる効率化に終わらせるか、新しい競争力へ昇華させるかの違いに似ています。 

Pentagramによる米国政府のWebサイト刷新プロジェクト
Pentagramによる米国政府のWebサイト刷新プロジェクト 参照:https://www.pentagram.com/news/performance-gov

日本企業に求められる“方針と育成” 

木村:このような取り組みは日本企業にも可能だと思っています。ただし前提となるのは、明確なルールと教育です。前回もお話しましたが、私はAIを“高IQの新人社員”に例えます。能力は高いので、適切に導けば圧倒的な成果を出します。つまり、会社としての方針と育成が欠かせないのです。 
日本は個人レベルでのAI活用は進んでいるものの、組織的な導入は遅れています。セキュリティや責任範囲の不安から導入をためらい、その結果、海外との差が広がっている。これは経営の観点で見ると、投資判断の遅れがそのまま市場シェアの損失につながる構図に近いように感じます。 
今こそ企業は「AI活用の共通言語」を持つ必要があります。使用ルールを明文化し、責任者を定め、社員教育を進める。欧州ではすでに企業単位でAIリテラシー研修を行うケースが増えています。日本企業もこの動きに追随しなければ、数年後には競争力そのものを失うリスクがあるのではないでしょうか。 

 ブランドは“語る力”で差がつく 

―― デザイナーとしてのAIとの関係性を教えてください 

木村:ブランドは一過性のキャンペーンではなく、10年、20年とかけて積み上げる資産です。だからこそAI活用も「目先の便利さ」ではなく、「長期的にブランド価値を高める道具」として位置づけるべきだと思います。 
ロゴやビジュアルはブランドの“器”ですが、その中に込められたストーリーをどう語るかが本質です。AIが生み出したものでも、パーパスに沿って人間が責任を持って語れるかどうかが問われます。 
少し前までは「AIで作った!」という事実自体が話題になりました。しかし今はそれが当たり前になりつつあり、次の問いは「その成果物をどうブランドに生かすのか」へと移っています。AIを単なる効率化ツールで終わらせず、ブランドの物語を強化する媒介にできる企業こそ、次の競争で優位に立つのではないでしょうか。 

 人間にしかできない「余白」の判断 

―― AIでは担えない領域もあるかと思いますがいかがでしょうか 

木村:やはり、ブランドコンセプトに込められている想いや背景といった「本質」を理解する力や、それを解釈し、可視化する力というのは人間の感性に委ねられる大きな部分だと思います。「本質」を理解するには、そのクライアントごとの文化や歴史、言葉に込められたニュアンス等を咀嚼する必要があると思います。例えば「先進的」と一言で言っても、可視化するにあたり「そのクライアントらしい「先進的」とはどういうことか」ということを掘り下げ、それを具体的なクリエイティブに落とし込まなくてはなりません。そういった部分はAIでは代替が難しいと思います。 
また、「良いもの」を見分ける力も重要です。テクニカルな話ですが、デザインの世界では、余白を数ミリ広げるかどうかで印象が大きく変わります。AIは数値通りの処理は得意ですが、その絶妙なバランスや引き算や余白で見せる「心地よさ」や「美しさ」を判断することはできません。ここは人間の感性があるから分かるものだと思います。 

さらに、ブランディングのクリエイティブは「作って終わり」ではなく、そこからがスタートです。長きに渡りそれらのアセットを活用し、様々な媒体で異なるステークホルダーに向けてコミュニケーションをしていかなくてはなりません。そのためには、クオリティの担保はもちろんですが、そのクリエイティブが、ブランドの「独自性」を表現しているだけでなく、ブランドコミュニケーション全体で使いやすいという「機能性」も併せて持っていることが重要です。細かな場面も想定しながら、全体俯瞰をし、システムとして機能するクリエイティブを作り上げることも人間だからできることだと思います。 
グラムコは「人、組織、世界を鼓動させる」というパーパスを掲げています。皆様のブランドが様々なステークホルダーと情緒的な繋がりを築き、多くの方々の共感を得て、心を動かす存在になる、その一助となれるよう戦略チームもクリエイティブチームも一丸となって日々業務に取り組んでいます。そのような人々の心を動かすデザインを作るためには「人間らしさ」という側面は必要不可欠だと思っています。 

AIは大量の案を出すことができますが、そこに深みやストーリー、人間らしさや全体を通しての整合性を付与するのは人間です。つまりディレクションが重要です。AIはあくまで道具であり、最終的に責任を持ち、ブランドの目的に沿う形へ導けるかどうかが肝心です。 
ブランド構築にあたっては、「誰が責任を持って作っているか」によって信頼度や共感度が変わると思います。クライアントや消費者が求めるのは文脈を理解し、責任を背負える存在です。今後、AIでそれっぽいものを作れる人材は増えると思いますが、その中に語れるストーリーや個性がなければ、ステークホルダーとの長期的な絆は作れないと思います。また、自分たちで作ったブランドとAIに作ってもらったブランドでは、人々がそのブランドを語る時に熱量も変わるのではないでしょうか。AI時代ほど、人間が担うべき責任の輪郭はむしろ鮮明になっていくでしょう。 

kimura

鍵はディレクション力 

―― AI時代においても、人間だからこそ担える責任や役割とはどのようなものだと思いますか? 

木村:繰り返しとなりますが、AI活用で最も重要なのはディレクション力です。AIはあくまで道具であり、最終的に責任を持ち、ブランドの目的に沿う形へ導けるかどうかが肝心です。 
ブランドの信頼は「誰が責任を持っているか」で決まります。クライアントや消費者が求めるのは文脈を理解し、責任を背負える存在です。今後、AIでそれっぽいものを作れる人材は増えると思いますが、その中に語れるストーリーや個性がなければ、ステークホルダーとの長期的な絆は作れません。AI時代ほど、人間が担うべき責任の輪郭はむしろ鮮明になっていくでしょう。 

次世代デザイナーへのエール 

木村:若い世代の方は、まずAIに触れて色々試してみてほしいと思います。AIに感動する瞬間もあれば、「やはり人間の方が優れている」と感じる瞬間もあります。その体験そのものが学びになるのではないでしょうか。 
そして、自分自身の感覚を磨くことが何より大切です。「何に心地よさを覚えるか」「どんな表現にワクワクするか」という基準を持つことが、唯一無二のアウトプットを生む土台になります。AIが当たり前に使われる時代だからこそ、自分の基準を持った人材はますます輝くのではないでしょうか。繰り返しとなりますが、ブランディングはステークホルダーとの絆作りなので、人の心を動かせるデザインが作れること、ここがポイントであり、人間が得意とするところだと思います。 

◇ 

AIは脅威ではなく、可能性を広げるパートナーです。しかし使い方を誤ればブランド価値を損なうリスクもあります。だからこそ企業もデザイナーも、今まさに議論を重ね、ルールを整え、協働体制を築くことが求められているのです。 
AI時代にブランドの未来を左右するのは、「目的に沿って使う姿勢」と「人間が責任を担う覚悟」です。経営層にとっても、AIを単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、ブランドを長期的に育てるための戦略資産として位置づけることが不可欠です。 

 

  • 木村百合子 (Yuriko Kimura)

    木村百合子 (Yuriko Kimura)

    エグゼクティブアートディレクター

    • 2003

      グラムコ入社

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