Column コラム

Identify you Magazine Vol.1

「テクノロジーの進歩と、ブランディングの未来」

山田敦郎(代表取締役 社長)

グラムコのことをより多くの方に知って頂くために、ブランディングに関するあらゆるテーマを深く掘り下げ、インタビュー形式で発信していきます。第1回目となる今回は、グラムコ代表 山田に、ブランディングの歴史を振り返り、現在日本が置かれた状況を踏まえ、未来に向けたブランディングとテクノロジーとの融合をどのように考えるかを問いました。

原点は、日本企業をもっとかっこよくしたいという思い

――初めに、そもそもですが創業のきっかけやルーツについて聞かせてください。

山田

元々は総合商社にいて、アフリカ大陸のアルジェリアで、プラント開発を手掛けていたんですね。サハラ砂漠を背に、目前には地中海が広がる山の上でプラントを建てる仕事をしていましたけど、その時の工場を建てる開発ステップを応用したのが、今のグラムコで提供しているブランド開発のメニューのヒントになっています。

当時は1980年代ですけど、加工貿易という言葉があったように、色々なものを作って輸出したとしても結局は下請けというケースも多かった。横浜のスカーフ屋さんが一所懸命スカーフを作っていても、それは結局フランスの著名ブランドの名前でしか売れていなかったり、とかね。

僕は一時期フランスにも留学していましたけど、海外の企業はデザイン的にもとてもかっこよく見えた。なぜ緑と赤の補色関係の色使いを、こんなに巧みに組み合わせられるんだろうとかね。もっと、日本の企業をかっこよくしたい、そして、付加価値をつけて堂々と自分の名前で売っていけるようにしていこうと考えたのが一つのきっかけです。

ブランディングとは、企業価値を向上させること

――改めてブランディングの歴史を振り返ると、どのような経緯がありますか。

山田

コーポレートブランドという概念が出来たのは、デービッド・アーカー氏(コーポレートブランディングを唱えたマーケティング/ブランディング界の大御所。米国カリフォルニア大学バークレー校名誉教授)が唱えてからですよね。それまでは、ブランドと言えばP&Gやネスレの商品ブランドのことを指していた。一般に言われていることだけど、日本では20世紀の終わりごろから金融再編が始まった際に一気に広まったことが一つのポイントにはなってきます。

元々は1908年、初期型のフォード・モデルTを売り出すときにマーケティングという概念が生まれたわけだけれど、フォードそのものをブランド化していくという動きも当然あって、マーケティングとブランディングは当時から密接に結びついていたのです。しかし、表に出てきたのはマーケティングだけだった。アーカー氏が唱えて、ようやくマーケティングの最終目標はブランドの価値を上げていくことだと認識されるようになった背景には、日本のグローバル化が強く意識されはじめた時代に、日本企業にとっても企業価値向上が命題になってきた、ということは言えると思いますね。

企業はもっと、力強いメッセージを打ち出していくべき

―― 一方で視点を現在に移すと、新型コロナウィルス感染症の影響によって、企業を取り巻く環境も大きく変わりました。この状況を、どのようにご覧になりますか。

山田

このWithコロナの時代は、そう簡単には終わらないでしょう。例えこのウィルスが去ってもまた別のものが来るかもしれない。ただ必ず夜明けは来ますよ。人類の歴史から言っても、これまでも解決してきたのだから。そのようなパンデミックの禍中で、日本企業はちょっと大人しすぎると思いますね。先が分からないからうかつなことは言えないというのは日本の文化かも知れないけれども、もっと企業が主体的にものを言っていいと思います。いろいろなことにチャレンジして、艱難辛苦を乗り越えた先にどうあるべきかを示していく必要があると思いますね。

ある調査によると、企業が人々から信頼を獲得するうえで、パーパス(日本では「存在意義」と訳す)や誠実さといった倫理的な要因は、企業そのものの能力よりも3倍も重要である、という結果(*1)が出ています。これから先、存在意義を表明しない企業は、淘汰されていくと言えるかも知れませんね。それぐらい、パーパスというのは、当たり前になってきているし、これから先の未来を切り開いていくためにも、企業にとって大事なものになると思います。これまでは様子見だった企業も、これからは国内にも世界にも堂々とメッセージを出していかなければいけないと思いますね。

*1 各要素が信頼度に与える影響の割合 - 倫理観76%(誠実49%、パーパス12%、信用15%の3項目合計)、能力24%『2020エデルマントラストバロメーター』より

リモート環境の普及は、インターナルブランディング実践のチャンス

――グラムコでは2月末よりリモートワークに移行していますが、こうした環境下でどのようにインターナル(内部向け)ブランディングに取組むべきかというお悩みをよく聞くようになりました。この点はいかがでしょうか。

山田

リモートワークは、業態や経営者のマインドによって、推進できる企業とできない企業があるというのは仕方のないことだと思います。インターナルブランディングという面では、リモートで国境も距離も超えていけるという大きなメリットがありますね。実際に、グラムコにもアジア各国の拠点をつないだ、オンラインセッションの相談が来ていたりします。言語の問題はあるけれども、英語を共通言語として、まずはトップ層に対して行った上で、その先は、それぞれの地域の言語で従業員たちへ落とし込みをしてもらうというカスケード手法を想定しています。ただし、リモート環境下であっても、インターナルブランディングには、エクスターナル(外部向け)と同じ熱量で取り組まないといけないということです。

もっと深くコミュニケーションしていかないといけない

その時に、今度は我々セッションを進める側のスキルアップというのが絶対に必要になってきますし、我々がこれからより磨いて行かなければならない部分です。

一方で、例えば製造ラインを抱えている企業だとしたら、工場のトップから、そこで働く一人ひとりの社員まで、全ての人に対するアプローチが必要だし、意見を吸い上げたり、議論をする機会を増やしていかないといけないと思いますね。コミュニケーションを取るのが難しくなっているからと言って軽く済ませるのではなく、ここにきてもっと深くコミュニケーションを取っていかないといけないと思います。まず上層部から取り組む前述のような方法においても、隅々まで広げて手厚くアプローチしなくてはなりません。

テクノロジーはブランド体験を変えていく

――続いて、テクノロジーの進歩という側面からARやVR、これらを混合したMR(Mixed Reality)といった技術の普及は、ブランディングにどのように影響を与えるかをお聞きしたいと思います。

山田

グラムコでも以前からスペースブランディングと言って、空間まで一貫したブランド体験というのを提供しているけれども、ARやVRといった技術の普及は、スペースブランディングを大きく後押ししていくでしょう。こうしたWithコロナの時代だからこそ、様々なテクノロジーの展開が加速しているように思います。

――例えばどんな事例があるでしょうか。

山田

すでに住宅メーカーや不動産販売が、バーチャルモデルハウスや内覧会をはじめていますが、ARも進歩を遂げています。消費者目線では、Amazon のView in your roomというサービスは面白いですよね。これは、アプリケーションをダウンロードして、自分のスマホのカメラを介して部屋の中を見たときに、欲しい商品が部屋の中に置かれているように見ることができるというものですが、自分が欲しいと思っているものを、部屋の広さに合うか、大きさやデザインがフィットするかというのを、リアルに確認できるというのは、消費者から見たら購買にプラスに働きますよね。

Amazon View in your room https://www.amazon.com/adlp/arview

――なるほど、企業が顧客接点をより密接なものとするのに、効果がありそうですね。他に、ビジネス向けのVR活用事例はあるでしょうか。

山田

ウォルマートに好例があるようです。ジョブトレーニングをするのに、VRグラスを使ってシミュレーションのトレーニングを行っているようです。こうすることで、従来は人がついて教えていかなければいけないことが、バーチャルな世界の中で色々なシチュエーションを体験しながら自分自身で業務を覚えていくことが出来るようになる。人的なコストを削減できるし、スキルの向上も見込めるということで活用しているようです。これからは、国内のどこにいても、あるいは国境を越えても、インターナルブランディングで活躍しそうなテクノロジーだといえるでしょう。

ウォルマートVRトレーニング

コンセプトがあって初めて生まれるブランド体験

――確かに、人材教育への活用というのは向いているようですね。では、こうしたARやVRを活用する上で、大事なポイントは何でしょうか。

山田

それは、何と言ってもコンセプトに尽きると言えます。先ほど、ARやVRはスペースブランディングを後押しすると言いましたけど、空間体験を設計するのに、絶対にコンセプトは必要です。

例えば、コニャックを販売するレミーマルタンのコンセプトは「比類なきルーツ」というものですが、これを伝えるために、レミーマルタンが出来るまでの過程をマイクロソフトが提供するホロレンズを使って知ることができるというイベントをやったようです。実際に、商品が浮いているような感じで、その製造工程を体験できるというのは、映像だけでは得られない新しい体験となったことでしょう。

レミーマルタン ブランド体験プロジェクト説明動画より

――ブランド体験を築く上で、コンセプトの構築は欠かせないということですね。最後に改めてテクノロジーの進歩による、ブランディングの未来についてお聞かせください。

山田

コロナの影響を色々と被っている訳ですが、良い面としては、企業と顧客がダイレクトにつながる機会が増えてきたというのがありますね。そうした時代の流れの中で、いかに顧客接点を重視して、企業が共感形成をしていくか、ということでしょう。先ほどまで例に挙げていたARやVRも、もっとゴーグルが小さくなったり、携帯可能なものが出てくればさらに普及していくでしょうし。そうした時に、ブランディングの役割としては、企業が発信するときの軸や基盤となるコンセプトづくりをブレずにやっていく、ということに尽きると思います。これからブランディングができることはたくさんあるし、ブランディングとテクノロジーを組み合わせてフル活用することができれば、企業活動の未来は、むしろ明るいと思っています。