西原行徳(Ikunori Nishihara)
取締役 ・シニアプランニングディレクター
1997年
グラムコ入社
ブランディングの重要性は理解されるようになった一方で、「何から始めればいいのか」「どう運用していけばいいのか」と悩む企業も増えています。また、AIの進化によって、ブランド戦略の立て方や情報収集の方法も大きく変わりつつあります。最終回となる第3回では、企業が直面するブランディングの課題や、AI時代におけるブランドの役割、そしてブランド担当者に求められる視点について、西原に話を聞きました。
Gramco Insights 10
ブランドを取り巻く環境は、この数年で大きく変化しました。人的資本経営や無形資産への関心が高まり、多くの企業がブランドの重要性を認識するようになった一方で、「何から始めればいいのか」「どう社内に定着させればいいのか」といった新たな課題も生まれています。
さらにAIの進化によって、ブランド戦略やコンセプトづくりのハードルは下がりました。しかし、本当に重要なのは情報を集めることではなく、その中から何を選び、どう意思決定するかです。
企業がこれからブランドとどう向き合うべきなのか。最終回では、西原の考えを聞きました。
―― 企業がブランディングに取り組もうとするとき、さまざまな課題に直面すると思います。これまで多くの企業をご支援されてきた中で、特につまずきやすいポイントはどこだと感じますか。
西原: いろいろありますが、一番よくあるのは、経営層がブランディングに十分コミットできていないケースですね。経営体制やマネジメント層が変わることで方針が変わってしまったり、「本当にそこまでやる必要があるのか」という空気になってしまったりすると、プロジェクト自体が前に進みにくくなります。
―― やはり経営のコミットメントが重要なのですね。
西原: そうですね。結局、ブランディングの成果をどこに求めるかという話になります。プロモーションのように短期的な成果を期待してしまうと、「すぐ効果が出ない」「成果が見えない」と判断されてしまい、予算が削減されたり、途中で止まってしまったりすることもあります。
反対に「ブランドは企業にとって必要な資産である」という前提を経営が共有できている企業は、長期的な視点で取り組むことができます。最近は、人的資本経営や無形資産への関心が高まったことで、「ブランディングは必要な取り組みだ」という認識を持つ企業も増えてきました。これは非常に良い変化だと感じています。
ただ、その一方で、「ブランディングが重要なのは分かった。でも、何から始めればいいのか分からない」という新たな悩みも増えています。つまり、「まだブランディングの優先順位が低い企業」と、「必要性は理解しているものの、最初の一歩が分からない企業」の二極化が進んでいる印象ですね。
―― ブランディングに取り組みたいけれど、何から始めればいいのか分からない」という企業には、どのようなことをお伝えしていますか。
西原: まずはスモールスタートでもいいと思っています。例えば、最初から大きなプロジェクトにするのではなく、リサーチから始めて、「自社の課題は何なのか」を整理することも一つの方法です。実際に私たちも、「まずはリサーチフェーズだけやってみませんか」とご提案することがあります。もう一つ大切なのは、「自分たちはどんな会社になりたいのか」という理想像を持つことです。
同業他社でも異業種でも構いません。「こんな会社になりたい」というベンチマークを見つけ、その企業がなぜそうなっているのかを分析し、自分たちとの違いを考えてみる。その上で、「自分たちは何を変える必要があるのか」を社内で説明できる状態をつくることが重要だと思います。そして、その課題意識に共感してくれる仲間を増やしていくことです。ブランディングは一人では進められません。トップダウンでもボトムアップでも構いませんが、組織の中で共感を広げ、仲間を巻き込んでいくことが成功の鍵になります。
―― ブランドを「つくって終わり」にしないためには、社内外へのブランドコミュニケーションも重要になります。実際にブランドを定着させていく上で、ポイントになることは何でしょうか。
西原: 一番大切なのは、ブランドを「自分たちの型」にすることです。何か判断に迷ったときに、「この考え方で判断しよう」と自然に立ち返れる状態をつくる。ブランドを判断軸として使えるようになることが理想です。ビジュアルは比較的分かりやすいです。デザインガイドラインがあれば、「このルールに沿ってつくればいい」と判断できますし、見た目も統一されるので成果が見えやすい。一方で、パーパスやブランドコンセプトは抽象度が高いため、どう日々の行動につなげるかが難しい。だからこそ、思考の型として定着させることが重要になります。「この考え方で本当にブランドらしいと言えるのか」そうやって一人ひとりが自然に自問自答できる組織になれば、ブランドは文化として根付いていくと思います。
―― そのために、部署ごとのワークショップや、各部門でブランドを自分たちの仕事に置き換えて考えるような取り組みも有効なのでしょうか。
西原: もちろん有効です。私たちは専門性を生かして全力で支援しますが、当然ブランドの主役はクライアントです。最終的には、企業自身がそれを当たり前のように実践し続けられることが大切です。ブランドを「特別な活動」ではなく、「日常の文化」にできるかどうか。そこが本当に重要だと思います。だからこそ、経営がその重要性を示し、組織全体のカルチャーとして定着させていく必要があります。その意味では、シンプルなルールを継続して徹底できる組織は強いですね。
―― ブランドを立ち上げた後、社内への浸透に悩まれる企業も多いと思います。印象的な事例や、成功のポイントがあれば教えてください。
西原: よくあるのは、「今年はこれをやろう」「来年はこれをやろう」と、その年ごとの施策だけを考えてしまうケースです。そうすると、2年、3年で手詰まりになってしまいます。「去年やったから、今年は何をしようか」と毎年悩むことになります。だから私たちは、もっと長い視点でブランドのゴールを描くようにしています。例えば10年後に目指す状態を決め、そこから逆算して、「最初の3年間でここまで」「次の3年間ではここまで」というように、ブランドの状態目標を設計していきます。そうすると、「今はこの段階に集中すればいい」ということが見えてくるので、長期的なブランド運用がしやすくなります。最近は、このような「ブランドをつくった後」の相談が本当に増えています。
一方で、ブランドづくりを始める前の企業に共通する悩みもあります。一番多いのは、「競合との差別化ができない」という相談です。成熟市場では、どの業界も正面競合や新規参入が多く、価格競争に巻き込まれがちです。その中で、「自社らしさ」をどうつくるのか。また、その違いがお客様にとってどんな価値になるのか。そこまで考え切れていない企業は少なくありません。だから目先の価格競争に追われながら、「本当はブランドを育てたい」というジレンマを抱えている企業も多いと感じています。
―― 最近は、ブランド戦略に必要な項目も、AIを使えば簡単に調べられる時代になりました。実際、「パーパス」「MVV」「ブランドピラー」「ブランドストーリー」など、ブランド戦略に必要そうな多くの項目を設けて、そこを埋めようとする企業も増えている印象があります。埋めるとなんとなくブランド戦略ができたように見えますが、でも、本来はその枠を埋めることが目的ではありません。形だけ整えてしまうと、本質を考える前に「ブランドらしいもの」ができてしまう危うさも感じています。
西原: いわゆる「やってます感」だけが出てしまうケースです。企業がパーパスを持つこと自体は悪いことではありません。でも、中身が伴っていなければ、実践することはできません。だから私たちは、「何を定めるか」よりも、「何が課題でなぜそう考えるのか」を対話を通じて理解することを大切にしています。
―― AIが当たり前になった今、ブランディングに求められる役割は変わっていくのでしょうか。
西原: 私は、AIは「選択肢を増やしてくれる存在」だと思っています。ブランディングに限らず、AIは多くのアイデアや可能性を提示してくれます。その意味では、とても強力なツールです。一方で、「最終的にどれを選ぶか」「なぜその選択をするのか」という判断は、人が行うものです。私は、AIが進化するほど、その判断や決断を支援する価値は、むしろ高まると思っています。企業は一人ではありません。多くの人が納得し、一緒に前へ進むためには、人による対話や伴走が欠かせません。その価値は、これからも変わらないと思います。少なくともこの3年くらいはそう願いたいです(笑)
西原: 例えば著名クリエーターによるブランディングでは、デザインの案をたくさん出すことではなく、数多くの選択肢の中から、「これです」と自信と確信を持ってクライアントへ提案できることに価値があるのです。その判断に、多くの人が納得し、前へ進める。私は、それを属人的でなくチームとして提供できることがグラムコの価値だと思っています。AIによって質の高い選択肢はさらに増えていくでしょう。そうした中、クライアントの最終的な判断や決断をチームで支援・解決することが、これからのブランディング会社に求められるのではないでしょうか。
―― 最後に、この記事を読んでいるブランド担当者の方へ、メッセージをお願いします。
西原: ブランド担当者は、自社のブランド価値を高めていく役割を担っている方だと思います。その中で、自分たちの意思決定や選択に対して、もっと多角的な視点を持ちたい、異なる視野からアプローチしてみたいと感じることがあれば、ぜひ相談していただきたいですね。
私たちは、壁打ち相手にもなれますし、同じような悩みを抱えていた他社の事例をお話しすることもできます。業種は違っていても、「実は同じような構造の課題かもしれない」ということは少なくありません。私は、他社事例をあえて多くお話しするようにしています。なぜなら、それは私の意見ではなく、実際に起きた事実だからです。「A社ではこういう課題があり、こう取り組んだ結果、こう変わりました」という事実を共有すると、クライアントの中で「自社にも当てはまるかもしれない」と、課題の輪郭が見えてくることがあります。何も見えていない状態に、少し輪郭を与える。そのために、私たちが積み重ねてきた実績や経験が役に立つのだと思います。
ブランドに関する悩みは、最初はぼんやりしていてもいいんです。むしろ、ぼんやりしているからこそ、一緒に整理し、形にしていく余地があります。弊社には、さまざまな業界のブランドに向き合ってきた知見があります。その経験をもとに、「この課題はこう考えられるのではないか」「こういう解決策があるのではないかと、前に進むためのシナリオを一緒に描くことができます。ブランディングについて語る人は増えましたが、具体的にどう考え、どう実行するかまで話せる人は、まだ多くありません。だからこそ私たちは、「Brand One」をはじめとした独自のアプローチをもとに、企業ごとにカスタマイズしながら、実際に機能するブランドづくりを支援していきたいと考えています。
ブランドについて少しでも迷いや課題を感じている方がいれば、ぜひ一度相談していただければと思います。
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今回で全3回にわたるインタビューは終了となります。ブランドは、ロゴやスローガンをつくることではなく、企業の存在意義を見つめ、組織の判断軸として育て続ける営みです。そして、その取り組みを支えるのは、経営者や担当者の想いであり、対話を重ねながら伴走するパートナーの存在でもあります。
30年近くブランディングに携わってきた西原の言葉から見えてきたのは、「ブランドは企業そのものを映す鏡である」ということ。そして、そのブランドは、人が考え、人が育て、人が未来へ受け継いでいくものだということでした。

取締役 ・シニアプランニングディレクター
1997年
グラムコ入社