西原行徳(Ikunori Nishihara)
取締役 ・シニアプランニングディレクター
1997年
グラムコ入社
ブランドは、パーパスやロゴの完成がゴールではありません。社内で判断軸として機能し、日々の意思決定やコミュニケーションの中で育ち続けることで、初めて企業の文化として定着していきます。第2回では、「ブランドはつくってからが本番」という考えのもと、弊社が実践する伴走支援やブランド運用、そして長年携わってきた印象的なプロジェクト事例について聞きました。
Gramco Insights 10
ブランドは、「生み出すこと」よりも、「育て続けること」の方が難しいと言われます。ブランド戦略を整備しても、それが組織の中で判断軸として機能しなければ、本当の意味でブランドは根付きません。
第2回では、ブランドを組織に浸透させるための伴走支援や、長年携わってきたプロジェクトから見えてきた成功するブランディングの共通点について聞きました。
―― 戦略を策定し、クリエイティブを制作し、ブランドアイデンティティが確立された後は、それを継続的に実践していくことが重要になります。ブランドが機能している状態とは、どのような状態を指すのでしょうか。
西原: 究極的には、社員一人ひとりが、自分たちのブランドを基準に「これは自分たちらしい」「これは自分たちらしくない」と判断できる状態だと思います。例えば、事業やコラボレーションの是非を自分たちのブランドに照らして判断できること。そして重要なのは、その判断軸が組織全体で共有されていることです。ブランドが組織の共通言語となり、誰もが同じ判断軸を持って行動できる組織は、ブランドとしても非常に強い組織だと思います。
―― その状態を実現するために、弊社ではどのようなサポートをしているのでしょうか。
西原: ブランドをローンチした後、「この施策はブランドに合っているのか」と判断に迷われる企業は少なくありません。ブランドの骨格はできても、運用の中で判断が難しいグレーゾーンが数多く出てくるからです。
そうした場面で、「ブランドらしいか」「方向性に合っているか」の判断を支援することが、現在私たちに非常に求められている役割です。
以前は、ブランドをつくって納品すればプロジェクトは終わりという考え方が一般的でした。しかし現在は、「ブランドはつくってからが本番」という認識が広がっています。「運用しながら育てていきたい」「伴走してほしい」というご相談も増え、ブランド運用支援は弊社の重要なサポート領域になっています。
―― ブランドを立ち上げた後の伴走支援では、デザインやクリエイティブの観点から、どのようなサポートをしているのでしょうか
西原: ブランドを立ち上げる際には、ブランドガイドラインやVI(ビジュアル・アイデンティティ)ガイドラインを整備します。ただ、運用が始まると各部門や依頼する制作会社によってさまざまなクリエイティブが生まれ、担当者ごとの解釈でブランドにばらつきが生じることもありました。
しかし最近は、「判断に迷ったら、ブランドを設計したグラムコに相談しよう」という考え方が広がり、「このデザインはブランドに合っていますか」「この表現は問題ありませんか」といった相談が増えてきました。これはブランド運用に対する意識が変わってきた証拠だと思います。
―― ブランドガバナンスという観点でも、そうした伴走支援は重要になってきているのでしょうか
西原: そうですね。ブランドガバナンスは非常に重要ですが、日本ではまだ欧米ほど優先順位が高いとは言えません。ブランドを立ち上げた当初は担当者の意識も高いのですが、人事異動や担当者の交代によって、その考え方が少しずつ薄れてしまうことがあります。企業では担当者が変わるのは当たり前ですから、そのたびにブランドの考え方まで失われてしまうのは、非常にもったいないことです。
―― その課題に対して、弊社にはどのような役割があるのでしょうか。
西原: 私たちは、ブランドを生み出した当事者として、その企業のブランドを最もよく理解しています。例えば日本を代表する大手IT企業グループとは15年以上お付き合いがあります。担当者が変わっても、「ブランドのことはグラムコに聞けば分かる」と頼っていただいています。企業の中で人が入れ替わっても、ブランドの記憶を引き継ぎ、一貫性を保ち続けられることは、長く伴走する私たちならではの価値だと思っています。
また、首都圏を中心に展開するデベロッパーからも継続的にブランド運用のご相談をいただいています。一度つくって終わりではなく、その後も相談いただける関係が続くことで、新規事業やグループ会社が立ち上がる際にも自然とお声がけいただける関係が生まれています。ます。そうした積み重ねが、長期的なブランド価値につながっていくのだと思います。
―― 印象的な事例をいくつか教えてください。
西原: 印象に残っているプロジェクトはいくつもありますが、メーカーでは日清食品ホールディングス株式会社です。プロジェクトが始まったのは創業者の安藤百福さんが亡くなられた直後で、創立50周年、そしてホールディングス化を控えた大きな節目のタイミングでした。
私たちは、創業者のDNAを時代に合わせて翻訳し、企業全体のDNAとして未来へ受け継ぐブランドづくりを支援しました。グローバル化やM&Aでグループが急速に拡大していく中で、創業者を直接知らない社員にも共感してもらえる形へ翻訳することが、このプロジェクトの大きなテーマでした。
日清食品ホールディングス株式会社実績 https://www.gramco.co.jp/works/rk87kta9h5hm/
西原:サービス業では、株式会社インテリジェンス、現在のパーソルキャリア株式会社が印象に残っています。当時は、人材紹介サービスへの理解が十分ではなかったため、「人材紹介サービスは社会に必要なサービス」という認識を広げるブランディングに取り組みました。その考え方から生まれた「はたらくを楽しもう」というメッセージは、現在のパーソルキャリア株式会社の「はたらいて、笑おう。」に受け継がれています。
BtoBでは株式会社NTTデータのCAFISです。日本のキャッシュレス決済を支える非常に重要なインフラブランドでありながら、レガシーなイメージだけが先行し、その価値が十分に伝わっていませんでした。そこで、「未来のキャッシュレス社会をリードする決済インフラ」という新たなブランドイメージへの転換を支援しました。
CAFIS実績 https://www.gramco.co.jp/works/gz3k-2kox5r/
―― 3つの事例に共通していた成功要因は何だったのでしょうか。
西原: シンプルに言えば、「本気で変わろうとしていたこと」だと思います。ブランディングは、何かを変えるためのプロジェクトです。にもかかわらず、途中でためらったり、やっぱり今まで通りでいいと思ったりしてしまうと、プロジェクトの意味が薄れてしまいます。成功している企業は、経営も担当者も「より良く変える」という意思を持っていました。そこが一番大きいと思います。
―― 特に大企業では、変えたい人と現状を維持したい人が必ずいますよね。
西原: もちろんいます。でも、私たちは変えようとしている人の味方をします。変えようとしている人は、組織やブランドに対して健全な危機感を持っています。もっと良くしたい。もっと進化させたい。そう考えている人たちです。そういう人たちは、組織の中では孤独になりがちです。だからこそ、私たちはその想いを形にするパートナーでありたいと思っています。
―― プロジェクト後、クライアントから「こんな変化があった」といったフィードバックを受けることはありますか。
西原: もちろんあります。ただ、どのプロジェクトも最初から歓迎されるわけではありません。ブランドをローンチした直後は、「本当にこれでいいのか」「ここまで変える必要があるのか」といった声が上がることもあります。でも、それは自然なことです。私たちが提案するブランドやコンセプトは、「今の姿」を表現するものではなく、「これから目指す未来の姿」を映し出すものだからです。もし最初から全員が「しっくりくる」と感じてしまうのであれば、それは今までと変わっていないということになります。
ブランディングは変化を生み出すための取り組みです。だからこそ、最初は必ず揺らぎが生まれます。私は、その揺らぎこそがブランディングのスタートだと思っています。そして、その揺らぎを組織の中で自分たちの力で乗り越えられるようになったとき、ブランドは企業文化として定着していくのだと思います。
―― 実際に、そうした変化を感じられるフィードバックをいただくこともあるのでしょうか。
西原: あります。例えば株式会社インテリジェンスでは、「はたらくを楽しもう」というスローガンを掲げたことは先ほどもお話ししましたが、先日、パーソルキャリア株式会社の役員の方に当時のプロジェクトを担当していたことをお伝えすると、開口一番、「『はたらくを楽しもう』ですか?」と言われ、その場で握手を求められました。「あの言葉は本当に素晴らしかった」と言っていただき、何十年経った今も会社のアイデンティティとして受け継がれていることを実感しました。
日清食品ホールディングス株式会社でも、プロジェクトから15年以上経った今も、「UNIQUE・HAPPY・GLOBAL・CREATIVE」というブランドの考え方が受け継がれています。「EARTH FOOD CREATOR」というグループ理念は、現在は「FUTURE FOOD CREATOR」へと進化しましたが、その根底にある考え方は変わっていません。
ブランドは生み出した瞬間がゴールではなく、時間とともに育ち、進化しながら、その企業らしさとして受け継がれていく。それこそが、私たちにとって何より嬉しいフィードバックです。
―― 成功するプロジェクトには「変わろうとする経営の意思」が共通しているというお話がありました。一方で、現場の担当者にも何か共通する特徴はあるのでしょうか。
西原: ありますね。やはり担当者の熱意や責任感は、とても大きいと思います。特に大切なのは、「必要なことは領域を定めず取り組む」という思いを持っていることです。ブランドの価値を高めるために必要なことであれば、自ら動ける担当者がいるプロジェクトは強いですね。逆に、「これは私の担当ではない」「それは別の部署です」と線を引いてしまうと、どうしても取り組みが部分的になってしまい、ブランド全体としては機能しにくくなります。
ブランディングは、一人ではできません。だからこそ、「ブランドを良くしたい」という思いを持つ担当者と一緒に伴走できることが、私たちにとっても一番大きな力になります。
◇
ブランドは、一度生み出したら終わりではありません。人が変わり、組織が変わり、社会が変わる中で、問い続け、育て続けることで初めて企業の文化となります。
最終回では、企業がブランディングでつまずくポイントやAI時代に求められるブランドの価値、そしてブランド担当者へのメッセージについて、西原の30年の経験をもとに語っていきます。

取締役 ・シニアプランニングディレクター
1997年
グラムコ入社